アメリカ映画産業と多様性の背景を読み解く
ハリウッドを中心としたアメリカ映画産業における多様性（ダイバーシティ）の現状と課題を解説します。人種、ジェンダー、性的指向などの側面から、映画業界の多様性に関する歴史的背景、近年の変化、今後の展望について考察します。
1. ハリウッドの歴史と多様性：初期の課題
ハリウッドは、20世紀初頭に映画産業の中心地として発展しましたが、 初期の段階では、多様性の面で大きな課題を抱えていました。 映画制作の主要な役割は白人男性が独占し、 人種的マイノリティや女性は、 ステレオタイプな役柄や限られた機会しか与えられませんでした。
1920年代から1960年代にかけての 「スタジオ・システム」時代には、 大手映画会社が映画制作のあらゆる側面を支配し、 多様な才能の参入を阻んでいました。 この時期には、 「ヘイズ・コード」と呼ばれる倫理規定が存在し、 異人種間の恋愛や同性愛などの表現が制限されていました。
1960年代の公民権運動や 女性解放運動の影響を受けて、 ハリウッドでも多様性を求める声が高まりましたが、 その変化は緩やかでした。 1970年代には、 「ニュー・ハリウッド」と呼ばれる新しい才能が登場し、 多様な視点を取り入れた作品が制作されるようになりましたが、 業界全体の構造的な変化には至りませんでした。
2. 人種的多様性： representationの向上と課題
ハリウッドにおける人種的多様性は、 長年にわたる闘いの歴史です。 アフリカ系アメリカ人、ラテン系アメリカ人、 アジア系アメリカ人などの人種的マイノリティは、 映画の中でステレオタイプな役柄を演じることが多く、 主要な役柄や制作の機会は限られていました。
近年では、 「#OscarsSoWhite」などのソーシャルメディア運動や、 映画業界内外からの批判を受けて、 人種的多様性を向上させるための取り組みが進められています。 アカデミー賞の選考基準の変更や、 映画会社による多様性に関する目標設定など、 さまざまな対策が講じられています。
その結果、『ブラックパンサー』や 『クレイジー・リッチ！』など、 人種的マイノリティを主人公とした作品が 商業的にも成功を収めるようになり、 多様な才能が活躍する機会が増えています。 しかし、依然として、 映画制作の意思決定層における人種的多様性は不足しており、 真のrepresentation（代表性）の実現には、 さらなる努力が必要です。
3. ジェンダー多様性：女性の活躍と課題
ハリウッドにおけるジェンダー多様性も、 重要な課題です。 映画監督、脚本家、プロデューサーなどの 主要な役割は、依然として男性が圧倒的に多く、 女性の活躍の機会は限られています。
近年では、 「#MeToo」運動や 「Time's Up」運動などの影響を受けて、 映画業界における女性の地位向上を求める声が高まっています。 映画会社や制作スタジオは、 女性監督や女性脚本家の育成プログラムを設けたり、 女性を主人公とした作品の制作を増やしたりするなど、 ジェンダー多様性の向上に取り組んでいます。
その結果、グレタ・ガーウィグ監督の 『レディ・バード』や パティ・ジェンキンス監督の『ワンダーウーマン』など、 女性監督による作品が 批評的にも商業的にも成功を収めるようになり、 女性の活躍の場が広がっています。 しかし、依然として、 映画制作の意思決定層における女性の割合は低く、 ジェンダー間の賃金格差も存在するなど、 課題は残されています。
4. LGBTQ+の表現：可視化と課題
ハリウッドにおけるLGBTQ+（レズビアン、ゲイ、 バイセクシュアル、トランスジェンダー、クィア/クエスチョニング） の表現は、近年、大きく変化しています。 かつては、LGBTQ+のキャラクターは、 ステレオタイプな役柄や否定的な描かれ方をされることが多く、 主要な役柄を演じることはほとんどありませんでした。
しかし、1990年代以降、 LGBTQ+の権利運動の進展や 社会の意識の変化を受けて、 LGBTQ+のキャラクターが 映画に登場する機会が増え、 その描かれ方も多様化してきました。 『フィラデルフィア』や『ブロークバック・マウンテン』など、 LGBTQ+のテーマを扱った作品が 批評的にも商業的にも成功を収めるようになり、 LGBTQ+の俳優がカミングアウトすることも 珍しくなくなりました。
近年では、『ムーンライト』や 『君の名前で僕を呼んで』など、 LGBTQ+のキャラクターを主人公とした作品が アカデミー賞を受賞するなど、 LGBTQ+の表現は、 ハリウッドにおいて重要な位置を占めるようになっています。 しかし、依然として、 トランスジェンダーの俳優が トランスジェンダーの役を演じる機会は限られており、 LGBTQ+のキャラクターの描かれ方にも、 ステレオタイプや偏見が残っているという指摘もあります。
5. 多様性の未来：包括的な映画産業に向けて
ハリウッドにおける多様性の向上は、 映画産業全体の未来にとって不可欠な要素です。 多様な視点や才能を取り入れることで、 より豊かで創造的な作品が生まれ、 より多くの観客に共感と感動を与えることができます。
近年、NetflixやAmazonなどの ストリーミングサービスの台頭により、 映画制作の機会が増え、 多様な才能が活躍する場が広がっています。 これらのプラットフォームは、 従来の映画会社よりも多様性に対して積極的であり、 さまざまな人種、ジェンダー、性的指向の クリエイターや俳優を起用した作品を制作しています。
今後のハリウッドは、 単に多様な人々を映画に登場させるだけでなく、 映画制作の意思決定プロセスに 多様な人々を参加させることが重要です。 これにより、より包括的で公正な映画産業が実現し、 より多様な物語が語られるようになるでしょう。
また、観客の意識の変化も、 ハリウッドの多様性を推進する上で重要な役割を果たします。 観客が多様な作品を求め、 多様な才能を支持することで、 映画産業はより多様性を受け入れる方向に進むでしょう。